長野地方裁判所 昭和49年(行ウ)11号 判決 1978年1月26日
原告 長場寛大 ほか二名
被告 信越郵政局長
訴訟代理人 玉田勝也 中村均 村上基次 ほか八名
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一申立
一 請求の趣旨
1 被告が昭和三八年五月一日付をもつてした
原告長場寛大(以下、原告長場という。)に対する停職三月
同新保康史(以下、原告新保という。)に対する停職三月
同渡辺茂雄(以下、原告渡辺という。)に対する停職一月
の各懲戒処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二主張
一 請求原因
1 原告らの地位
原告らは、昭和三八年三月当時、次のとおりいずれも国に雇傭された郵政労働者であつて、新潟県新発田市、同県・北蒲原郡及び新潟市(一部)に所在する郵便局四三局に勤務する郵政労働者約五五〇名をもつて組織されている全逓信労働組合(以下、全逓という。)新発田支部の組合役員の地位にあつたものである。
原告
組合役職
勤務場所
長場
新発田支部支部長
新潟県 水原郵便局
新保
同 書記長
同 新発田郵便局
渡辺
同 執行委員
同 佐々木郵便局
2 本件懲戒処分の存在
被告(本件懲戒処分当時の名称は長野郵政局長で、後に現名称である信越郵政局長に変更された。以下、同じ。)は、昭和三八年五月一日付で請求の趣旨記載のとおりの懲戒処分(以下、本件処分という。)をしたが、その理由は次のとおりである。
原告らはいずれも1記載のとおり新発田支部の役員であるが、昭和三八年三月七日から九日までの間、新潟県北蒲原郡加治川村所在金塚郵便局(以下、金塚局という。)の局長(以下、金塚局長という。)追放等を目的として新発田支部役員らを動員し、右目的を貫徹することを計画しこれを実行せしめたほか、
(一) 原告長場は、同月九日勤務を欠いて金塚局に赴き、新発田支部役員らとともに同局舎内に不法に侵入し、退去要求を拒否して同局長に面会を強要し、あるいは同局前において同局長追放等の集会を開催したばかりでなく、新発田支部役員らをして金塚局長を誹謗するビラを配布又は貼付せしめるなどし
(二) 原告新保は、同月七日及び九日の両日勤務を欠いて金塚局に赴き、同局舎内に不法に侵入し、退去要求を拒否して同局長に面会を強要し、同局前において同局長追放等の集会を開催し、あるいは同局長を誹謗するビラを配布し、又は配布せしめ、さらに暴行、傷害を受けた同局長に暴言を浴びせるなどし
(三) 原告渡辺は、同月八月勤務を欠いて金塚局に赴き、退去要求を拒否して同局長に面会を強要し、職員の職務の執行を妨害し、あるいは同局長を誹謗するビラを配布するなどしたものであつて、これらの行為は国家公務員法(以下、国公法という。)八二条一号ないし三号に該当する。
3 結論
本件処分は、原告らに国公法八二条に該当するような事実がないのに、原告らが労働組合の役員であること、あるいは正当な労働組合活動を行なつたことを理由に、その報復的な不利益待遇としてなされたものであつて、不当労働行為に該当するから、取消されるべきである。
二 請求原因に対する認否
1、2項は認める。3項は争う。
三 被告の主張
原告らに対する本件処分の理由は、次のとおりである。
1 非違行為
(一) 原告新保
(1) 原告新保は、新発田支部書記長として、同支部支部長の原告長場、同支部副支部長の芋川(以下、芋川副支部長という。)らと共謀のうえ、昭和三八年三月六日ころ、新発田支部執行委員会を開催し、同月七日から九日までの三日間金塚局及びその周辺に全逓組合員や他の労働組合員(以下、組合員らという。)を多数動員し、後記の各種違法な集団行為を行なうことを計画し、組合員らの動員の手配、後記内容のちらし約六〇〇枚、ステツカー(貼り紙の意、以下同じ。)約四〇枚を用意するなどの準備をしたうえ、組合員らをして右計画を実行せしめた。
(2) 原告新保は、同月七日無断欠勤のうえ、当日の集団行動の責任者として金塚局に赴き、次の非違行為を行なつた。
(イ) 午前九時四〇分ころから約二〇分間及び午前一〇時四五分ころから数分間、局前路上に組合員ら十数名を集め、携帯マイクを用いて当日の集団行動の目的を説明するとともに、金塚局長兼田正作が、無集配特定郵便局における内勤職員による積立郵便貯金の集金事務に関する労使間の確認事項を踏みにじり労働条件を低下させている旨の事実に反する内容の演説を行なつて同局長を誹謗し、午後二時ころにも携帯マイクを用いて解散の挨拶をするなどし、これが喧噪を極めたため同局の業務の正常な運営を妨げ、かつ同局長の名誉を毀損した。
(ロ) 午前一〇時ころ組合員二名とともに同局長の制止を押し切つて同局の裏口から事務室に入り、客を装つて公衆室に入つてきた組合員ら七、八名と呼応して、同局長及び事務の応援のため同局に来ていた黒川郵便局長宍倉謹二(以下、黒川局長という。)、新発田下町郵便局長杉浦松三(以下、新発田下町局長という。)に対し、同人らが明確に断つているにもかかわらず、執拗に団体交渉を強要し、金塚局長の退去の要請にも応じないで約三〇分にわたつて同局内に留まり、また午後一時三五分ころ同局公衆室に現われ、数名の組合員らとともに黒川、新発田下町両局長に対し、大声で「黒川、今度は黒川に火がつくぞ。」「新発田下町も叩けばいくらでも出てくるぞ。」などと暴言を浴びせ、さらに午後三時ころにも「お茶を飲ませてくれ。」と言いながら金塚局長の制止を押し切つて事務室に入り、その退去通告にもかかわらず、約一五分間同局内に留まつて、いずれも同局の業務の正常な運営を著しく妨げた。
(ハ) 組合員ら十数名を率いて同局付近の部落を集団行進し、組合員らをして「金塚局長は、自分の栄達のため無理に職員に積立郵便貯金の集金を行なわせている。そして局長は偉い者、局員は下男、下女という認識がいまだ払拭されていない。職員は休憩、休息、年次有給休暇が自由にとれない。時間外労働をしても手当が支払われない。女子職員が、労働基準法に違反して深夜業をさせられている。」などの事実に反し金塚局長を誹謗する内容のちらしを配布させ、又は同趣旨の内容を携帯マイクを用いて放送し、同局長の名誉を毀損した。
(3) 原告新保は、同月九日にも無断欠勤のうえ、金塚局に赴き、原告長場とともに同人に関し後に1(三)(2)で述べる各非違行為をした。また、暴行、傷害を受けた同局長に対し「仮病を使うな。」と暴言を浴びせた。
(二) 原告渡辺
原告渡辺は、三月八日無断欠勤のうえ、金塚局に赴き、次の非違行為ををした。
(1) 午前一〇時ころから同局公衆室において、芋川副支部長や組合員らとともに同局長及び黒川局長に対し、執拗に団体交渉を要求し、金塚局長から再三退去を要求されたにもかかわらず約一時間にわたつて不法に同室に留まつて同局長に「何だと、この野郎。」「兼田正作は月給泥棒だ。」など言を吐いて騒ぎたて、また同局長の事務処理に対して「目方を間違えるな。」「料金は大丈夫か。」などいちいち口をはさんで嫌がらせをし、さらに午後一時五五分ころから同局公衆室に現われ、他の組合員三名とともに郵便物搬入の場所が違うなどと言つて大声で騒ぎたて、いずれも同局の業務の正常な運営を著しく妨げた。
(2) 午前一〇時五三分ころ、公衆室において、利用客が小包一個を差し出して宛先に到着するまでの日数を尋ねたのに対し、担当職員が三日位である旨答えたところ、傍から「ここの局長は悪い人だから一週間位かかる。」などと口をはさんだ。
(3) 午後〇時八分ころ、同局前に集合した組合員らに対し、携帯マイクを用いて春闘の状況や前記(一)(2)(ハ)のちらしの内容と同趣旨の演説をし、喧噪を極めたため、同局の業務の正常な運営を妨げるとともに、同局長の名誉を毀損した。
(4) 午前一一時一五分ころ、芋川副支部長とともに同局付近の路上で通行人に対し、前記(一)(2)(ハ)の内容のちらしを配布し、午後も芋川副支部長とともに組合員ら十数名を率いて同局周辺の部落を集団行進して右内容のちらしを配布させ、また同局長を誹謗する内容を携帯マイクで放送し、その名誉を毀損した。
(三) 原告長場
(1) 原告長場は、新発田支部長として原告新保、芋川副支部長と共謀のうえ、原告新保に関し(一)(1)で述べた違法な集団行動を計画準備し、組合員らをして右計画を実行せしめた。
(2) 原告長場は、同月九日無断欠勤のうえ、当日の集団行動の責任者として金塚局に赴き、次の非違行為をした。
(イ) 午前九時過ぎから約二〇分間、原告新保とともに同局前路上に組合貰ら十数名を集めてそれぞれ携帯マイクを用いて積立郵便貯金の集金に関する管理者側との交渉の経過を放送し、また組合員らをして労働歌の合唱を行なわせ、これが喧噪を極めたため、同局の業務の正常な運営を著しく妨げた。
(ロ) 午前九時三七分ころ、原告新保とともに組合員ら十数名を率いて同局公衆室に現われ、同局長が明確に断わつているにもかかわらず執拗に団体交渉を迫り、又は大声で騒ぎたてたり、同局舎の扉や窓ガラスを叩いたりし、さらに午前九時四五分ころ、同局長が勤務終了の事務員を同局の裏口から帰宅させようとした隙に、右裏口から事務室に侵入し、同局長や事務の応援に来ていた加治郵便局長関鋼蔵(以下、加治局長という。)及び亀代郵便局長堀豊次郎(以下、亀代局長という。)らの再三の退去の要請を無視して午後〇時ころまでの間同事務室を不法に占拠するなどして、同局の業務の正常な運営を著しく妨げた。
(ハ) 午後一時ころから約一時間にわたつて原告新保とともに組合員ら十数名をして前記(一)(2)(ハ)の内容のちらしを配布させ、「利用者の敵、権力主義者兼田局長」「非近代的な金塚局長の退陣を要求しよう。」「公衆サービス向上のため悪質金塚局長を追放しよう。」などのステツカー数十枚を道路筋の電柱や壁に貼付させ、同局長の名誉を毀損した。
2 処分根拠法令
原告らの前記各行為のうち、無断欠勤の点は国公法八二条一号(同法一〇一条一項違反)、二号に、その余の点は同法八二条三号に(なお原告渡辺の前記1(二)(2)の行為は、同法九九条に違反するので、同法八二条一号にも)それぞれ該当する。
四 被告の主張に対する認否
1 原告らが昭和三八年三月七日から九日までの間、それぞれ被告主張の日に金塚局に赴き、公衆室又は事務室において同局長に対し団体交渉を要求したこと、同局前路上で携帯マイクを用いて挨拶、連絡、報告をし、又は意見を述べたこと(但しその時間は五分ないし一〇分程度である。)及び同局周辺でビラを配布し、ステツカーを貼付したことは認める。しかし、この点に関する被告の主張は著しく事実に反し、又はこれをことさらに歪めたものである。右団交の要求、挨拶、意見などの陳述及びビラの配布、ステツカーの貼付などの原告らが行なつた行動は、金塚局長が労使間の確認事項に違反し、積立郵便貯金の集金を局員に継続して行なわせていたため、その廃止を目的として行なつた正当な組合活動そのものであつて、懲戒処分の対象とされるいわれは全くない。
2 原告らが無断欠勤したことは否認する。原告らは金塚局に赴いた日については欠勤届を提出し、所属長の承認を得た。そして右承認はいまだに取消されていない。仮に右承認が取消されたとしても、欠勤を承認するか否かの判断は、当該日の事業所における業務運行上の都合を基準とすべきであるから、後において取消すことは許されない。よつて原告らは無断で欠勤したものではない。
五 原告らの反論
1 事件の背景
特定郵便局は全国に約一万五、〇〇〇局あり、局舎の私有、局長の自由任用、世襲、経費の渡切制により運用されていて、他の公務員制度に全く類をみない封建的、非近代的労使関係のままの状態でとり残されていたのであるが、とりわけ無集配の特定郵便局(郵便物の集配事務を行なわず、外勤職員の配置がなく、おおむね局員三、四名の小規模な郵便局)においては、もともと外勤職員と内勤職員との間には賃金体系、労働時間、被服の貸与その他の労働条件が異るにもかかわらず、内勤職員がそのまま外勤の仕事を併せ行なつているため、労働条件が一層不明確かつ劣悪であり、労務管理は特に非近代性が顕著であつた。
そこで全逓中央本部は従来から郵政本省との間にその問題について交渉を重ね、漸く昭和三三年に至つて無集配特定郵便局での郵便貯金の集金事務は昭和三四年度までに全廃するとの合意(確認)が成立した。そして長野郵政局と全逓信越地方本部との間でも同年四月右の事項に関し団体交渉が行なわれ、右中央交渉での確認事項をさらに発展させ明確にし、その結果無集配特定郵便局での集金事務については、まず二年間の経過措置としてこれを窓口払込などの方式に切り替え漸減させたうえ、二年後(昭和三四年度末まで)には全廃することで、完全に意見が一致した。なお、右中央交渉の結果は、昭和三三年三月六日本省貯金局から長野郵政局貯金部長宛に指導文書が出され、右地方交渉の結果は同年四月一一日長野郵政局貯金部長、同経理部長から管内無集配特定郵便局長宛に、また同年五月一日長野郵政局貯金部長から管内各郵便局長宛にそれぞれ通達がなされて、さらに前記確認事項を明確にした。
しかるに右確認、通達にもかかわらず、無集配特定郵便局での集金事務が依然として全廃されないため、昭和三七年一一月第一七回信越地方委員会では、集金票を四〇件以上持つている局を拠点として、昭和三八年二月末日までに支部団交で集金票の移管を確認するほか、重点を当該局長におき、直接局長と交渉して移管させることを主眼とする闘争方針が決定された。
新発田支部においては、右闘争方針を受けて昭和三七年一一月二六日第一〇回及び翌年二月二二日第一一回の支部委員会で拠点局の一つとして金塚局を選び、集金票の移管を推進させることと、前記確認事項を無視し労働組合を否認する態度を示す金塚局長に対し局長交渉を要求するとともに対外宣伝活動を行なつて同局長の反省を求めることを決定した。しかも同局長は勤務指定表を作成してこれを周知させることをせず、休憩、休息時間を正規に与えず、女子職員に深夜業を行なわせるなど、労働協約や労働基準法に違反することがしばしばであつた。そこで、原告らは他の組合員らとともに右決定にもとづいて昭和三八年三月七日から九日までの間同局に赴き、次のとおり同局長に対し労働条件の改善を求める団体交渉を要求するとともに、ビラの配布などの対外宣伝活動を行なつたのである。
三月七日、原告新保は新発田支部執行委員田中文雄らとともに金塚局長に対し貯金業務、集金票移管問題を主たる交渉事項として団体交渉の申し入れをしたが、同局長がこれを拒否したため、たまたま夜間ベルの修理人が裏口から入局した際に、これと同時に同局事務室に入り、団交を強く要求した。しかし同局長の不誠実かつ敵対的態度により事態は進展せず、右交渉事項についての交渉は全くできなかつたため、原告新保はやむなく田中執行委員を残して同局外へ出、ビラの配布をしたのである。
三月八日、芋川副支部長、原告渡辺が他の組合員とともに金塚局長に交渉を申入れたのに対し、同局長は全くこれに応ぜず、相変らず敵対的態度をとり続けた。そこで右原告らは「午後一時ころまた来るから交渉の申入れについて考えておいて欲しい。」旨申入れ、他の組合員とともにビラの配布をし、午後再び交渉についての回答を求めたが、無視されるに至り、この日も目的を達することができずに解散したのである。
三月九日、前両日の交渉申入が拒否されたため、新発田支部長である原告長場も自ら金塚局に赴き、原告新保らとともに公衆室から同局長に対し交渉を要求したが、局長は依然これにも応ぜず、遂には気分が悪いといつて帰宅してしまつた。このため、その後はやむなくビラ配布などにより強く組合の主張を訴え、郵便局の利用者、村民の協力を得ていささかでも組合の目的達成のために活動せざるを得なかつたのである。
2 原告らの行動は、前述のように組合役員としての職責にもとづき主として、貯金業務従事の内勤職員の労働条件の維持ならびに職場における労働条件の適正化のために行なつた正当な組合活動である。従つて右のような組合活動に対しては、国公法や人事院規則の懲罰法規を適用すべきではなく、公共企業体等労働関係法により律せられるべきである。ところが被告は原告らの行為が組合活動であることの評価をせず、国公法のみにより懲戒したものであつて、法令の適用を誤つたものである。
六 被告の再反論
1 無集配特定郵便局において内勤職員が行なつている積立郵便貯金の集金事務については、昭和三三年初めころ郵政本省と全逓中央本部との間で「(一)現在無集配特定郵便局の内勤職員が行なつている集金事務は漸減の方針で進み、昭和三四年度末すなわち昭和三五年三月末までに廃止する。(二)昭和三五年四月一日以降においても、無集配特定郵便局の内勤職員が親戚知人といつた人問的つながりから、あるいは窓口預入になつている貯金者がたまたま貯金が遅れたような場合に対公衆サービスとして等自発的に集金に行くことまでも禁止するものではない。
(三) 両者は右了解の趣旨を下部機関に理解させるため責任をもつて指導する。」という内容の了解が成立したが、これと並行して長野郵政局と全逓信越地方本部との間において行なわれていた話し合いにおいて昭和三三年四月ころに右了解内容を十分に尊重し、それぞれ下部機関を指導するということで了解に達した。そして長野郵政局は昭和三三年四月一一日及び同年四月下旬それぞれ通達を出し、また各種の貯金に関する会議の席上でも繰返し指導して無集配特定郵便局における内勤職員の集金事務の問題につき徹底をはかつた。
以上のとおり、中央および地方交渉のいずれにおいても、労使間の了解事項として無集配特定郵便局が積立貯金の募集はもとより集金についても、これを全廃するとの確認がなされた事実はない。
2 昭和三七年一一月一六日、新発田郵便局において新発田支部とこれに対応する郵政省管理者との間で交渉が行なわれた後に、金塚局における積立郵便貯金の集金について労使間で話し合いがなされ、その際金塚局長が出席して発言したことはあるが、同局長が支部役員らに対し同局の集金事務を全廃する趣旨のことを確約した事実はない。
なお管理者側では、昭和三七年一二月一日金塚局の積立郵便貯金の実状を調査したところが、集金票は一三七件あり、うち団体預入が三六件、窓口預入が一〇一件であること、月平均約三十数件の集金がなされており、四人の職員が月に一、二度程度手空きの時間を利用して一回に一時間ないし二時間程度を要する局外集金をしていたこと、その集金に対しては規定の集金手当が支給されていたこと、各職員とも同局長に命令されて行なうのではなく、例えば月末になつても貯金者が貯金をしない場合とか、貯金者から集金方を依頼された場合に、職員が天気の良い時や暇な時を利用して自発的に集金を行なつていたことが明らかであり、金塚局における集金事務に関しては、前記労使間の確認事項及び通達、指導に反している事実のないことが確認され、このことはその後組合との話し合いの機会に組合側に伝えられている。
3 原告らの前記各行為は正当な組合活動とは到底いえないものである。
(一) 金塚局前路上での集会について
被告は前記同局前路上での集会自体を非違行為として主張するものではないが、十数名にすぎない組合員らを対象に携帯マイクを用いて、同局において執務する職員の耳にガンガン響くような音量で演説を行ない、これが喧噪を極めたため同局の業務の正常な運営を著しく妨げたこと及び演説の内容が同局長の名誉を毀損するものであつたことを非違行為と主張するものであり、右のような行為が正当な組合活動の範囲を逸脱したものであることは明らかである。
(二) 金塚局長が団体交渉の要求を拒否したことについて
郵政省における団体交渉は、中央交渉、地方交渉、支部交渉の三段階の場を設け、郵政本省と全逓の中央本部、地方郵政局とこれに対応する地方本部、郵便局とこれに対応する組合の支部をそれぞれの交渉の場における交渉当事者と定め、交渉担当者は省側と組合側がそれぞれ指名する「公共企業体等を代表する交渉委員」と「組合を代表する交渉委員」とした。しかし特定郵便局の段階においては、各局所限りの問題について当該職員と管理者間における常識的な意味での事実上の意思疎通というものはありうるとしても、これは労働協約上の団体交渉ではなく、当該局に団体交渉の場を設定したものではない。そして金塚局長は右交渉委員として指名されておらず、殊に原告らのような他局の職員との間に団体交渉を行なう権限も義務も全くないから、原告らからの団体交渉の申入を拒否することができるのは当然である。もつとも団体交渉の性質がそのようなものであるからといつて同局長が支部役員らとの話し合いを頭から拒否しようとしたものではなく、業務の運営に支障がない限り適当な人数の職員と意思疎通をはかるための話し合いを行なうことには決してやぶさかではなかつたのである。現に昭和三七年一二月七日、二四日、昭和三八年一月一六日には、新発田支部役員と十分に話し合いを行なつている。しかしながら前記三月七日から三日間の場合は、既に述べたとおり原告らから多数の組合員らの威力を示し、同局長を大声で罵倒しながら交渉を求めたので、このような状態のもとでは正常な話し合いを期待することはできず、かつもし話し合つた場合には業務の正常な運営が妨げられるおそれがあつたので、同局長は話し合いを拒否したものであり、何ら不当なところはない。
(三) 金塚局舎内での原告らの行動について
原告らが同局長の明確な交渉拒否にもかかわらず、執拗に交渉を強要し、退去を求められたのに同局舎内に留まつて騒ぎたてたこと、特に原告長場、同新保は金塚局長の制止を排除して同局事務室に侵入し、かつ退去を求められても約三〇分ないし二時間留まつたこと、原告渡辺が金塚局職員の小包引受けの際傍でいやがらせの発言をしたことは、原告らがいかに弁解しても到底正当な組合活動とはいえない。
(四) ちらしの配布、ステツカーの貼付について
原告らが金塚局付近で配布したちらし及び貼付したステツカーの内容は、前述のように事実に反し、同局長の名誉を毀損するものである。原告らは前記三日間に右ちらし約六〇〇枚を配布し、右ステツカー約四〇枚を貼付し、又は他の組合員らをして配布もしくは貼付せしめたのであつて、これら内容及び枚数からみて到底正当な組合活動とは思われない。
4 原告らは金塚局に赴いた日について欠勤届を出し、所属長の承認を得たけれども、当該欠勤日よりのちになつて所属長が、これらの承認を取消したものである。
欠勤について承認をするか否かは、単に業務運行上の便宜からだけでなく、職場秩序の確保という面からも判断されなければならない。従つて欠勤を違法な行為に利用しようとしてその承認申請がされた場合には欠勤が承認されず、またのちになつて欠勤が違法な行為に利用されたことが判明した場合にも当初から承認がなかつたものとして扱われるべきであり、その意味で、一たん承認をしたとしても事後に取消すことができるというべきである。
第三 証拠<省略>
理由
第一 原告らの地位と本件処分の存在
原告らの地位(請求原因1記載の事実)と本件処分の存在(同2記載の事実)については、当事者間に争いがない。
第二 本件処分の適法性
一 原告らの行為
1 原告新保が昭和三八年三月七日、九日、原告渡辺が三月八日、原告長場が三月九日、それぞれ金塚局に赴いたこと、原告らが同局に赴いた日について、いずれも欠勤届を提出し、欠勤について所属長の承認を得たこと、原告らが金塚局の公衆室又は事務室において同局長に対し、団体交渉を要求したこと、同局前路上で携帯マイクを用いて挨拶、連絡、報告をし、又は意見を述べたこと、同局周辺でちらしを配布し、ステツカーを貼付したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と<証拠省略>を総合すれば、次の事実を認めることができる。
(一) 原告新保
(1) 原告新保は、新発田支部書記長として原告長場、芋川副支部長らと共謀のうえ、昭和三八年三月六日ころ、新発田支部執行委員会を開催し、同月七日から九日までの三日間金塚局及びその周辺に組合員らを多数動員し、後記の各種集団行動を行なうことを計画し、組合員らの動員の手配、後記内容のちらし約六〇〇枚、ステツカー約三〇枚を用意するなどの準備をしたうえ、組合員らをして右計画を実行せしめた。
(2) 原告新保は、同月七日、当日の集団行動の責任者として金塚局に赴き、次の行為をした。
(イ) 午前九時四〇分ころから約三〇分間及び午前一〇時四五分ころから数分間、同局前路上に組合員ら十数名を集め、携帯マイクを用いて当日の集団行動の目的を説明するとともに、金塚局長が無集配特定郵便局における内勤職員による積立郵便貯金の集金事務に関する労使間の確認事項を踏みにじり労働条件を低下させている旨の内容の演説を行ない、午後二時ころにも携帯マイクを用いて解散の挨拶をするなどし、これが喧噪を極めたため、同局の業務の正常な運営を妨げた。
(ロ) 午前一〇時ころ、組合員二名とともに、同局長の制止を押し切つて同局の裏口から事務室に入り、客を装つて公衆室に入つてきた組合員ら七、八名と呼応して、同局長及び事務の応援のため同局に来ていた黒川局長、新発田下町局長に対し、同人らが明確に断つているにもかかわらず、執拗に団体交渉を強要し、金塚局長の退去の要請に応じないで約三〇分にわたつて同局内に留まり、また午後一時三五分ころ同局公衆室に現われ、数名の組合員らとともに黒川、新発田下町両局長に対し、大声で「黒川、今度は黒川に火がつくぞ。」「新発田下町も叩けばいくらでも出てくるぞ。」などと暴言を浴びせ、さらに午後三時ころにも「お茶を飲ませてくれ。」と言いながら金塚局長の制止を押し切つて事務室に入り、その退去通告にもかかわらず約一五分間同局内に留まつて、いずれも同局の業務の正常な運営を著しく妨げた。
(ハ) 組合員ら十数名を率いて同局付近の部落を集団行進し、組合員らをして「金塚局長は、自分の栄達のため無理に職員に積立郵便貯金の集金を行なわせている。そして局長は偉い者、局員は下男、下女という認識がいまだ払拭されていない。職員は休憩、休息、年次有給休暇が自由にとれない。時間外労働をしても手当が支払われない。女子職員が労働基準法に違反して深夜業をきせられている。」などの内容のちらしを配布させ、又は同趣旨の内容を携帯マイクを用いて放送した。
(3) 原告新保は、同月九日にも金塚局に赴き、原告長場とともに同人に関し後に(三)(2)で述べる各行為をした。また原告新保は、暴行、傷害を受けた同局長に対し「仮病を使うな。」と暴言を浴びせた。
(二) 原告渡辺
原告渡辺は、三月八日金塚局に赴き、次の行為をした。
(1) 午前一〇時ころ、同局公衆室において、芋川副支部長や組合員らとともに同局長及び黒川局長に対し、執拗に団体交渉を要求し、金塚局長から再三退去を要求されたにもかかわらず、約一時間にわたつて不法に同室に留まつて同局長に「何だと、この野郎。」「兼田正作は月給泥棒だ。」など暴言を吐いて騒ぎたて、また同局長の事務処理に対して「目方を間違えるな。」「料金は大丈夫か。」などいちいち口をはさんで嫌がらせをし、さらに午後一時五五分ころ、同局公衆室に現われ、他の組合員三名とともに郵便物搬入の場所が違うなどと言つて大声で騒ぎたて、いずれも同局の業務の正常な運営を著しく妨げた。
(2) 午前一〇時五三分ころ、公衆室において利用客が小包一個を差し出して宛先に到着するまでの日数を尋ねたのに対し、担当職員が三日位である旨答えたところ、傍から「ここの局長は悪い人だから一週間位かかる。」などと口をはさんだ。
(3) 午後〇時八分ころ、同局前に集合した組合員らに対し、携帯マイクを用いて春闘の状況や前記(一)(2)(ハ)のちらしの内容と同趣旨の演説をし、喧噪を極めたため、同局の業務の正常な運営を妨げた。
(4) 午前一一時一五分ころ、芋川副支部長とともに同局付近の路上で通行人に対し、前期(一)(2)(ハ)の内容のちらしを配布し、午後も芋川副支部長とともに組合員ら十数名を率いて同局周辺の部落を集団行進して右内容のちらしを配布し、またこれと同趣旨の内容をマイクで放送した。
(三) 原告長場
(1) 原告長場は、新発田支部長として原告新保、芋川副支部長と共謀のうえ、同新保に関し(一)(1)で述べた集団行動を計画、準備し、組合員らをして右計画を実行せしめた。
(2) 原告長場は同月九日、当日の集団行動の責任者として金塚局に赴き、次の行為をした。
(イ) 午前九時過ぎから約二〇分間、原告新保とともに同局前路上に組合員ら十数名を集めてそれぞれ携帯マイクを用いて積立郵便貯金に関する管理者側との交渉の経過を放送し、また組合員ら全員をして労働歌の合唱を行なわせ、これが喧噪を極めたため、同局の業務の正常な運営を著しく妨げた。
(ロ) 午前九時三七分ころ、原告新保とともに組合員ら十数名を率いて同局公衆室に現われ、同局長が明確に断わつているにもかかわらず執拗に団体交渉を迫り、又は大声で騒ぎたてたり、同局舎の扉や窓ガラスを叩いたりし、さらに午前九時四五分ころ、同局長が勤務終了の事務員を同局の裏口から帰宅させようとした隙に、右裏口から事務室に侵入し、同局長や事務の応援に来ていた加治局長及び亀代局長らの再三の退去の要請を無視し、午後〇時ころまでの間同事務室を不法に占拠するなどして、同局の業務の正常な運営を著しく妨げた。
(ハ) 午後一時ころから約一時間にわたり、原告新保とともに組合員ら十数名をして前記(一)(2)(ハ)の内容のちらしを配布させ、「利用者の敵、権力主義者兼田局長」「非近代的な金塚局長の退陣を悪要求しよう。」「公衆サービス向上のため悪質金塚局長を追放しよう。」などのステツカー数十枚を道路筋の電柱や壁に貼付させた。
以上のとおり認められ、<証拠省略>のうち右認定に反する部分はいずれも採用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 ところで右1に認定した内容の放送、演説、ちらしの配布、ステツカーの貼付によつて、原告らが金塚局長を誹謗し、その名誉を毀損したということができるかどうかについて判断する。
(一) 「金塚局長が無集配特定郵便局における内勤職員による積立郵便貯金の集金事務に関する労使間の確認事項を踏みにじり労働条件を低下させている。」「同局長が自分の栄達のため無理に職員に積立郵便貯金の集金を行なわせている。」との各点が真実であるかどうかについて。
(1) 中央における労使の話し合い
<証拠省略>を総合すると、次の事実を認めることができる。
昭和三二年一一月、全逓中央本部は郵政省に対して無集配特定郵便局において内勤職員が行なつている積立郵便貯金の集金事務について、集金手当の廃止、集金票の受持集配局への移管を要求した。これについては労使双方で話し合いが行なわれていたが、翌昭和三三年一月下旬に至つて全逓中央本部は、昭和三三年四月一日から始まる昭和三三年度の郵便貯金奨励方針に対する諸要求事項の一つとして外野活動(募集、集金事務など。以下、同じ。)は外勤職員のみで行なうとすべきであるとの要求をして、当初の無集配特定郵便局における積立郵便貯金の集金の問題を拡大した形で提出した。これに対して郵政省は、右要求をそのまま受け入れた場合、例えば内勤職員が知人や親戚の者から何らかの事情で窓口預入の積立郵便貯金の集金を頼まれた時とか、あるいは積立郵便貯金に加入したいが自宅まで来て欲しいと頼まれた時、また窓口預入が遅れている積立郵便貯金について自発的に集金に行くことなど、従来内勤職員が人間的つながり、あるいは対公衆サービスの立場から自発的に行なつていた募集、集金までが一切禁止されることになり、とりわけ当時全国的にみると無集配特定郵便局において内勤職員が約二五万件の集金を現実に行なつていたので、郵便貯金制度の運用上重大な影響を及ぼすことになるとして、外野活動は原則として外勤職員のみで行なうこととし、前記のような内勤職員が人間的つながり、あるいは対公衆サービスの立場から自発的に行なう募集、集金は例外的に認めるよう主張した。この点について種々労使間で話し合つた結果、全逓中央本部も郵政省があげるような人間的つながり、あるいは対公衆サービスの立場から自発的に行なう募集、集金についてまで一切禁止しようとする意思ではないことを認め、労使ともにこのような認識のもとに、昭和三三年二月二一日に「外野活動は外勤職員が行なう。」という表現で意見が一致した。ただ、無集配特定郵便局において内勤職員が行なつている積立郵便貯金の集金は、現実に約二五万件もあり、今直らに外勤職員で行なうことにすると実際上種々支障が生ずるので、二年間の猶予期間を置いてその間は従前通り内勤職員の集金を認めながらその集金を漸次減らして行つて、昭和三五年度からは前記の労使間の了解のように外勤職員が行なうことにすることで意見が一致した。そして労使は各々下部機関に右のような話し合いの経過を責任をもつて指導することとなつた。
以上のとおり認められ、右認定に反する<証拠省略>は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 地方における労使の話し合い
<証拠省略>を総合すると、次の事実を認めることができる。
長野郵政局と全逓信越地方本部との間においても、昭和三三年一月ころから昭和三三年度の郵便貯金奨励方針について話し合いが行なわれていたが、議題が前記中央における労使の話し合いの議題と殆んど重複していたので、労使双方とも中央における話し合いの成り行きを見守りながら話し合いを進めていた。そして昭和三三年二月二一日に前記のとおり中央における労使の話し合いが了解に達したので、その内容に沿つて長野郵便局と全逓信越地方本部は話し合いを進め、同年四月一一日に最終的に労使間で了解に達した。その中に無集配特定郵便局における内勤職員の行なう積立郵便貯金の集金の問題が含まれていたが、労使ともに中央における話し合いでの了解と同一の内容で了承し、労使双方とも誠意をもつて下部を指導することとした。そして長野郵政局は、昭和三三年四月一一日付で通達貯管第六三号を、また同年四月下旬ころ通達貯管第八七号をそれぞれ出し、そのうえ各種の貯金に関する会議の席上でも繰り返し指導してその徹底をはかつた。
以上のとおり認められ、右認定に反する<証拠省略>は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(3) 支部における労使の話し合い
<証拠省略>を総合すると、次の事実を認めることができる。
昭和三七年一一月一六日新発田郵便局で全逓新発田支部とこれに対応する郵政省側管理者との間で、いわゆる三六協定締結について団体交渉が行なわれたが、その後金塚局における積立郵便貯金の集金について労使間で話し合いが行なわれた。この席に金塚局長も説明員として出席し、組合側の問に対して「積立郵便貯金の集金については、長野郵政局からの文書あるいは口頭の指導により、内勤職員が人間的つながりや対公衆サービスの立場から自発的に集金に行くことは差し支えないと考えている。金塚局では職員が手空時間を利用して自発的に集金を行なつているもので、その件数も少なく、決して職員に強制して集金を行なわせているものではない。もし昭和三三年の労使間の了解が右のような場合の集金をも禁止する趣旨であるならば、明日からでも集金はやらせない。職員の集金に対して区内旅費を支給するかどうかについては郵政局に問い合わせたうえ回答する。集金票を中条郵便局(以下、中条局という。)に移管せよとの要求に対しては、貯金者に挨拶状を出して中条局への移管を希望するかどうかを尋ね、移管を希望する者には集金票を移管する。集金票の移管状況については管理者側の代表者に通知してもよい。」旨答えた。
その後金塚局長は、窓口預入の貯金者のうち窓口預入が遅れがちな約三〇名に対し、月々の預入の励行方と、もし集金預入を希望する方には中条局の移管するから申し出られたい旨の挨拶状を出した。その結果は中条局に移管を希望する者が全然なく、窓口預入が励行されるようになり集金件数は僅少となつた。さらに、金塚局長は一一月一八日ころ長野郵政局に積立郵便貯金の集金について指示を求めたところ、同月二〇日長野郵政局から「内勤職員が人間的つながりや対公衆サービスの立場から自発的に集金に行くことは差し支えない。内勤職員が行なう集金に対しては区内旅費を支給する必要がない。集金を行なつた場合は集金手当を支給する。」旨の回答を得た。また新発田局長も長野郵政局に赴いた際に集金問題について同様の指示を受けた。
なお管理者側では相談のうえ、昭和三七年一二月一日に黒川局長と亀代局長の両名が金塚局に赴き、同局の積立郵便貯金の実情を調査した。その結果同局には積立郵便貯金の集金票が全部で一三七件あり、うち団体預入が三六件、窓口預入が一〇一件であること、大体平均して月々三十数件の集金がなされており、四人の職員が月に一、二回程手空時間を利用して一回につき一、二時間位の局外集金をしていたこと、その集金に対しては規定の集金費が支給されていたこと、各職員とも同局長に命令されて行なうのではなく、例えば月末になつても貯金者が預入していない場合とか、貯金者から集金方を依頼された場合に、職員が天気の良い時や暇な時などを利用して自発的に集金を行なつていたことが確認された、そして管理者側は集金問題に関する前記長野郵政局の指示や、金塚局の実情をその後の組合との話し合いの機会に組合側に伝えた。
以上のとおり認められ、<証拠省略>のうち、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(4) 金塚局における労使の話し合い
<証拠省略>を総合すると、次の事実を認めることができる。
(イ) 全逓新発田支部は、昭和三七年一二月七日執行委員田中文雄、星忠吾を金塚局に派遣して、集金票の移管状況や区内旅費の支給に関する郵政局の指示などについて金塚局長に尋ねさせた。そこで同局長は、前記のような長野郵政局からの指示の趣旨を説明するとともに、貯金者のなかに中条局への移管を希望する者がないので現在のところ一件も集金票を移管していない旨回答した。これに対して、右二名の執行委員は内勤職員による自発的な集金ということはあり得ないからといつて、その集金の停止を強く要求し、もしそれが容れられない場合は金塚局前及び村内で拡声器を用いてこの問題を宣伝するがそれでもよいかと威嚇し、約三、四〇分間話し合つたうえで帰つた。
(ロ) 昭和三七年一二月二四日にも全逓新発田支部は、執行委員である原告渡辺、星忠吾、田中文雄、長谷川信の四名を金塚局に派遣して積立郵便貯金の集金の即時停止を要求し、集金票の移管状況を尋ねさせた。これに対して、同局長は前記のような長野郵政局の指示の趣旨を説明して、内勤職員が人間的つながりや対公衆サービスの立場から自発的に集金を行なうことは何ら差し支えない、また中条局への移管を希望する者がないので、集金票は一件も移管していない旨回答して、双方は約三、四〇分間話し合つた。
(ハ) 昭和三八年一月一六日ころ全逓新発田支部書記長原告新保は金塚局に赴き、同局長と積立郵便貯金の集金について話し合つたが、双方とも従前の話し合いの内容とほぼ同様の主張をして終わつた。
以上のとおり認められ、<証拠省略>のうち右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(5) 以上に認定した労使双方の話し合いの経過、金塚局における積立郵使貯金の集金事務の実態からみると、「金塚局長が、無集配特定郵便局における内勤職員による積立郵便貯金の集金事務に関する労使間の確認事項を踏みにじり労働条件を低下させている。」「同局長が自分の栄達のため無理に職員に積立郵便貯金の集金を行なわせている。」との各点は、いずれも真実ということはできない。
(ニ) 「金塚局の職員は休憩、休息、年次有給休暇が自由にとれない。」「時間外労働をしても手当が支払われない。」「女子職員が労働基準法に違反して深夜業をさせられている。」との各点が真実であるかどうかについて
(1) 金塚局の職員の休憩休息時間
<証拠省略>によれば、金塚局においては職員の休憩、休息時間は、勤務指定表、担務指定表、服務表等に基づき正規に付与されていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 金塚局の職員の年次有給休暇
<証拠省略>によれば、同局職員は自由に年次有給休暇を利用しており、昭和三八年三月末で同局職員の有する残休暇日数は、近誠吾が二四日、藤田茂が三日、浮須清五が二一日一時間二〇分、常木洋子が一二日六時間二〇分であること、休暇請求権が有効期間を経過して消滅してしまつたような事例がないことが認められる。そして原告新保の本人尋問の結果によれば、新発田地方の郵便局の職員が有する休暇の残日数は平均二五日であることがうかがわれるので、金塚局の職員が有する休暇の残日数はいずれも右平均日数より少ないことからみても、同局の職員の年次有給休暇の利用が特に制約されているともいえない。
(3) 時間外労働に対する手当
弁論の全趣旨によれば、原告らは、金塚局職員には、時間外の集金に対する手当が支給されていないと主張しているようであるが、<証拠省略>によれば、金塚局における職員の集金が時間外になされていないことが認められるので、時間外労働をしても手当が支払われないとの主張は失当である。
(4) 女子職員による深夜業
<証拠省略>によれば、金塚局では電話交換業務及びこれに付随して電報発受の業務を行なつているため、同局の四人の職員が交替で宿直を行なつていること、右四人の職員のうち女子職員は一人であつて同人が宿直していた際深夜(午後一〇時から翌朝午前五時までの間)に取扱つた電報発受の業務は過去の実績によると一月に一件あるかないかの割合であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右のように女子職員が深夜における電話交換業務に付随して社会通念上僅少と認められる程度の電報発受の業務を行なつても、特段違法ということはできない。
(5) 以上認定した金塚局における勤務の実態に徴すれば、「金塚局の職員は休憩、休息、年次有給休暇が自由にとれない。」「時間外労働をしても手当が支払われない。」「女子職員が労働基準法に違反して深夜業をさせられている。」との各点は、いずれも真実と認めることはできない。
ちなみに<証拠省略>によれば、全逓新発田支部は金塚局において労働基準法違反、労働協約違反の事実があるとして新発田労働基準監督署に右事実を申告したが、同監督署の調査の結果、全逓新発田支部の主張するような事実が存在しないとの結論を得たことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(三) 「金塚局長は、局長は偉い者、局員は下男、下女という認識がいまだ払拭されていない。」「同局長は利用者の敵、権力主義者、非近代的、悪質な局長である。」との各点が真実であるかどうかについて
全証拠を検討しても、右各点が真実であると認めることはできない。
(四) 以上によれば、前記1に認定した放送、演説の各内容、ちらし、ステツカーの各記載内容はいずれも真実に反し、金塚局長を誹謗し、その名誉を毀損するものであることが明らかであり、若し原告らが右各内容を真実であると考えたとしても、そのように考えるについて合理的な事情があつたと認めることもできない、そうだとすれば、右各内容の放送、演説、ちらしの配布、ステツカーの貼付によつて、原告らが金塚局長を誹謗し、その名誉を毀損したということができる。
3 被告は原告らが無断欠勤をしたことを処分理由としているが、一1の冒頭に述べたとおり原告らは金塚局に赴いた日について欠勤届を提出し、所属長の承認を得ているものであるから、本件処分との関係においては原告らの欠勤を無断欠勤として取扱う余地はない。よつて、原告らが無断欠勤をしたことを処分理由とすることはできない。
二 非違行為該当性
1 右一に認定したところによれば、原告らの行為は国公法八二条三号に(なお原告渡辺の行為中、前記一1(二)(2)の点は同法九九条に違反し、同法八二条一号にも)該当する。
2 ところで原告らは前記一の各行為について、次のとおりその非違行為該当性を争うので判断する。
(一) 原告らは金塚局長が無集配特定郵便局における内勤職員による積立郵便貯金の集金事務に関する労使間の確認事項を踏みにじつており、また同局における労働条件が劣悪であるから、同局長に対してこれらの改善を要求するために、正当な組合活動として本件行為に及んだ旨主張する。
しかしながら、すでに認定したところによれば、原告らの動機とするところはすべて理由がないばかりでなく、原告らの行為は、手段、態様において社会的に相当な行為であると評価することもできず、正当な組合活動といえない。
なお金塚局における労働条件に関して、原告らは金塚局においては勤務指定とその周知がなされていない旨主張するので、この点についても判断する。
<証拠省略>によれば、郵政省と全逓との間で締結された勤務時間及び週休日等に関する協約附属覚書」の一九項に「所属長は各職員について四週間を単位としてその期間内に各日の勤務の種類、始業時刻及び終業時刻(ただし、勤務の種類により明らかである場合は省略する。)並びに週休日を定め(以下、『勤務の指定』という。)これを当該期間の開始日の一週間前までに関係職員に周知するものとする。」旨の規定があることが認められる。そして<証拠省略>によれば、金塚局においても勤務指定表が作成され、これが各職員に対して右規定により周知されていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。なお<証拠省略>は、金塚局の勤務指定表と出勤簿、現金出納簿、休暇経理簿、休暇請求書等とを比較検討して、勤務指定表が信頼できないものである旨指摘するが、<証拠省略>を総合すれば、勤務指定表とその他の帳簿類との記載上の齟齬は、合理的に説明することができるので、勤務指定表は信頼に値するというべきであるから、右指摘は正当でない。
以上のとおりであるから、この点についても原告らの主張は失当である。
(二) 原告らは労働者の労働組合活動に対しては、国公法や人事院規則の懲罰法規を適用すべきではなく、公共企業体等労働関係法により律せられるべきである旨主張する。
しかしながら、組合活動であつても国公法や人事院規則の懲罰法規の要件を満たす場合、当局は懲戒その他の措置をとることができると解するのが相当であるから、原告らの主張は採用できない。
(三) 原告らは金塚局長が団体交渉を拒否したため、機会をみて同局事務室に立ち入り、あるいは同局外において前記演説、ちらしの配布をしたものであつて、原告らの行為は正当である旨主張する。
<証拠省略>によれば、郵政省と全逓との間には「団体交渉の方式、及び手続に関する協約」が存在し、その第一条に
1 甲(郵政省)乙(全逓)間における団体交渉を円滑に行ない、かつその効果をあげるため、次の区分により団体交渉を行なうものとする。
交渉の場 交渉当事者
中央交渉 本省と中央本部
地方交渉 郵政局とこれに相対する地方本部
支部交渉 局所とこれに対応する支部
2 前項の支部交渉において、乙の支部細織が二以上の局所にわたる場合はそれらの局所を合わせて一つの局所とみなす。
旨の規定があり、また右協約に関して「『団体交渉の方式及び手続に関する協約』に関する議事録確認事項」が存在し、その第一項に
第一条第二項の場合において、団体交渉の場は支部交渉であるのゆえをもつて一つの局所においてその局所限りの必要とされる問題について折衝が行なわれることを否定するものではない。
旨の規定があることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
そして右各条項を合理的に解釈するならば、複数の局所とこれに対応する支部との間における支部交渉に関連して、一の局所限りの必要とされる問題について、当該局所と支部との間で折衝を行なうことが可能であると解すべきであり、支部から当該局所に対して当該局所限りの必要とされる問題について正規の手続を経て折衝の申入がなされた場合には、当該局所の管理者はこれに応ずべきものである。
しかしながら、本件においては、既に説示したとおり、全逓新発田支部は金塚局との折衝の日時、場所を事前に指定して折衝の申入をしたものでもなく、また十数名の組合員らが大挙して同局に押しかけて折衝の申入をしたものであつて、このような状況においては、正常な折衝をすることは期待しえず、若し同局舎内において折衝に応じたならば同局の業務の正常な運営を阻害するおそれが十分にあつたから、同局長が右折衝の申入を拒否したことはやむを得なかつたというべきである。
三 不当労働行為該当性
以上に認定した事実関係から考察すれば、原告らの各行為は非違行為であつて正当な労働組合活動ということはできない。そして原告らの各行為の目的、手段、態様、影響等に鑑みれば、右非違行為に対する本件処分は相当であり、かつ、原告らが労働組合の役員であること、若しくは組合活動をしたことの故をもつて懲戒処分という不利益な取扱をしたものとみることもできない。従つて、本件処分には不当労働行為に該当する瑕疵が存しないというべきである。
第三結論
以上の次第であるから、被告が原告らに対してなした本件処分は適法であつて、これには原告ら主張のような違法が存しないので、その取消を求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 川名秀雄 山下知明 川島利夫)